2つの計算方法
建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)の適合性判定に係るエネルギー消費性能基準は、非住宅建築物または非住宅部分を対象とした一次エネルギー消費量に係る基準のみとなっており、「標準入力法」と「モデル建物法」と呼ばれる2つの計算方法のいずれかにより算出することになっています。これらによってBEI(設計一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量で除した数値)が算出され、新築の建物ではこの値が1.0を超えないこと、すなわち設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量を超えないことが適合条件となります。
では、この標準入力法とモデル建物法とはどのようなもので、何が違うのでしょうか。これらはいずれも国土交通省の省令及び告示で定められた算出方法です。したがって、これらの計算方法以外で算出することは原則できません。また手計算で行うことは困難ですので、これらは国立研究開発法人建築研究所のホームページ上に設けられたプログラムを使って算出することになっています。この2つのプログラムは、入力する情報の詳細さが異なります。
手間はかかるが、ハイスコアが狙える標準入力法
国は平成28年4月から施行された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」(建築物省エネ法)で、その第7条に「建築物の販売・賃貸を行う事業者は、その販売又は賃貸を行う建築物について、省エネ性能を表示するように努めらければならない。」といった表示制度を定めました。これは、売買や賃貸契約時に宅建業法に基づく重要事項説明が必要となる物件は、基本的にはこの努力義務の対象となります。そして、この努力義務対象は、義務化対象の2000㎡以上の新築非住宅に限定されるものではありません。新築・既存を問わず、住宅・非住宅を問わず、また規模を問わず、さらには省エネルギー基準への適合有無を問わず努力義務対象になります。この表示は、第三者認証マークのひとつとして普及が期待されているBELSが主なものとなりますが、これはフロア単位やテナント、共同住宅の住戸などの部分についても表示が可能です。ですので、先に述べた既存マンションでリノベーションされた住戸や、リニューアルされたオフィスビルの売買、もしくはそのようなオフィスビルのフロアやテナントのリーシング時にも、省エネルギー性能の表示は、購入や賃借予定者の判断材料のひとつとなるのです。
BELS以外の表示制度として、省エネ基準に適合することについて、所管行政庁の認定を受けた場合にその旨を表示できる基準認定適合マーク(eマーク)があります。国は、特に既存建築物についてはそのエネルギー消費性能が千差万別であるため、本表示をすることで当該建築物が基準適合認定建築物であることを賃借人や住宅購入者等が一目で認識できるようにすることを企図しています。また国は、どちらかと言えば、この基準認定適合マークの方が主に既存住宅や建築物で活用され、新築についてはより高い省エネ性能をアピールできるBELSを活用していくといったすみわけを想定している模様です。建築物省エネ法施行の際(平成28年4月1日)に現に存する住宅・建築物については、BEI(設計一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量で除した数値)の値が1.1でも基準認定適合マークの認定が受けられます。そのため既存の建物においては、使い勝手の良い制度と言えます。ちなみに容積率の特例が適用されるようにするには、適合すべき「誘導基準」のBEIは1.0となります。
建築物省エネ法の既存建築物への遡及
標準入力法は、正式には「エネルギー消費性能計算プログラム(非住宅版)」と言います。これは、建築物に設けるすべての室単位で床面積や設置される設備機器等の性能の入力が必要な詳細計算法です。もう一つのモデル建物法については後述しますが、それと比較すると、精緻な評価結果を算出することが可能ですので、建築計画上の様々な工夫についても評価結果に反映させることもできます。その一方、プログラムに入力する情報量が多く、小規模事務所のような建物でもその情報量は3~4倍程度と言われています。また、プログラムへ入力した情報と適合性判定時に提出する図面に描かれた情報は一致していなければならないので、作図作業についてもそれなりの手間がかかります。さらに計画変更を行う場合でも同様の作業が発生することや、適合性判定機関の審査においてもチェックする項目がモデル建物法の場合と比べて増えるので、時間がかかります。
手軽に扱えるモデル建物法
モデル建物法は、正式には「モデル建物法入力支援ツール」と言います。これは、室単位ではなく、建築物全体としての主な設備機器等の性能を入力するイメージです。建物用途ごとに建物形状や室用途構成などを仮定して、このモデル建築物に対して評価対象建築物の外皮や設備の代表的な仕様を適用したときの一次エネルギー消費量を算出して評価を行う簡易法です。標準入力法と比べて扱う情報量も簡素化されますので、手軽にBEIの算出ができます。また、申請や審査も省力化され短期間で済みます。ただし、同じ建築物を評価したとしても、詳細に計算を行う標準入力法よりもBEIは安全側、すなわちやや大きめの結果となるようにプログラムで調整されています。ですので、実際には標準入力法で算出すれば基準に適合している建物でも、標準入力法で算出せずモデル建物法のみで算出して不適合となってしまい、性能の良い材料や設備機器を導入して基準に適合させた結果、コストアップになってしまうケースも出てくることが考えられます。逆に、高性能な設備機器の導入や建築計画的な工夫を行い省エネルギー性能に配慮しても、BEIの値は思ったほど下がらない(良くならない)傾向があります。
どちらを選択するかは、良い相談相手を探すのがいちばんの近道
この2つの入力方法のどちらを選ぶか判断する材料として、そのほかに計画の変更を行った時のことがあります。建築確認申請と同じように、省エネ基準の適合判定を受けた後に、省エネ計画に記載されている内容を変更しようとする時には計画変更の手続きが必要になります。この場合、標準入力法のほうが作業の手間がかかることについては前述しました。しかし、「軽微な変更」に該当する場合は、計画変更の必要がありません。「軽微な変更」とは、省エネ性能が向上する変更、一定の範囲内で省エネ性能が減少する変更、再計算によって基準適合が明らかな変更の3つの変更に該当する場合をいいます。この中の2番目である一定の範囲内で省エネ性能が減少する変更では、計画変更前の省エネ性能が、省エネ基準を1割以上上まわる、すなわちBEIが0.9以下となるもので、変更後の省エネ性能の減少が1割以内に収まることが前提となっています(さらに具体的な変更の条件が定められていますが、ここでは紙面上の都合で割愛します)。したがって、モデル入力法でBEIが0.9を超えても、標準入力法で0.9を下回っていた場合で、その後の変更が一定の範囲内に想定できるならば、標準入力法を採用したほうが良いと考えられます。
建築物省エネ法では、省エネ性能を建物の販売や賃貸時に表示する努力義務が課せられました。また、より高い水準である誘導基準に適合した建築物については容積率の特例を受ける制度も創設されました。それらの時にもBEIの値が用いられますので、より高い省エネ性能をアピールすることが求められることが多くなると予想されます。その際には標準入力法を採用することになるでしょう。
一方で、審査や申請業務にかかる負担をなるべく増やさないで、建築物の省エネ性能の向上を全国に展開することが、今回、建築物省エネ法が制定された目的の一つです。モデル建物法はそのための支援ツールであり、国はモデル建物法の推奨と拡充を図っています。平成29年4月から適用される制度ですので、建物の規模や用途、プロジェクトの進め方などで、どちらの入力法を選択するか判断するのに必要な情報は、今後の推移を見守る必要があります。そんな時こそ、このサイトを利用して省エネルギー計算の相談できる良きパートナーを見つけることが一番の近道となるでしょう。
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